BBHはフィデリティ・インターナショナルの公共政策責任者であるダン・へドリー氏と膝を交え、世界の規制環境を形作っている最重要課題と傾向について議論しました。へドリー氏には自身の政策見通しに加え、欧州の運用機関にとって何が今後1年の規制関連の最大の優先事項と考えられるかについて語って頂きました。

 

2017年を迎えて、欧州の運用機関が直面する規制面での最大の課題は何でしょうか。

 

ダン・へドリー氏:最大の課題は、異なる政策目的を達成するために策定された、様々な対象向けの様々な開示要件を満たすことだと考えています。運用機関にとって、業務効率が高く、且つ顧客と投資家にとって利便性の高い統一された形でそれを実行するのは困難でしょう。

 

運用機関は今年、原資産として譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)とオルタナティブ投資ファンドに投資している個人投資家向けの保険ベースパッケージ型投資金融商品(PRIIPs)の組成者にファンド・データを送信するための基準をまとめ上げる必要があります。さらに、第2次金融商品市場指令(MiFID 2)の下で販売業者にターゲット市場データを送信するための基準も策定しなければなりません。幸い、両指令に対する運用業界の対応はかなり進んでいますが、MiFID 2の下で作業ペースを速める必要があるでしょう。

 

MiFID 2は欧州で201813日に施行されます。企業がそれに備えるに当たって2017年に最も注力すべき分野は何でしょうか。

 

ダン・へドリー氏:大半の運用機関は、MiFID 2の取引報告や手数料の切り分けといった要件への対処をすでにかなり進めているようです。一方、商品ガバナンスに関する要件とターゲット市場の評価を実行するのはより困難でしょう。これらの規制は依然として主観的なものであり、どのように遵守するかについて業界全体のコンセンサスがまだありません。フィデリティは、運用機関からも販売業者からも、そしてプラットフォームからも等しく採用される統合的な業界標準の確立に貢献しています。販売業者からの当初のフィードバックは非常に好意的で、我々は現在、ターゲット市場マトリックスを我々が主体となって実施するための場所を探しているところです。

 

まだ始まっていない最大の政策論議は何でしょうか。

 

ダン・へドリー氏:まだ始まっていない最大の政策論議は、投資家とそのアドバイザーに対してファンド・データをより効率的かつ効果的に開示する方法の実現を、政策がどのように支援できるかだと思います。総合すると、UCITS、オルタナティブ投資ファンド運用者指令(AIFMD)、PRIIPs、MiFID 2は運用機関に対し、投資家がファンドを比較・選定するうえで強力なツールとなる一連のデータ・ポイントの作成を求めるとともに、手数料とパフォーマンスに関する説明責任を負わせることになります。

 

問題は、こうしたデータが使いやすい形で投資家に届けられない場合が多いことです。

 

欧州連合(EU)の規制は、投資家が必要とする包括的な見解を累積的には提供するかもしれませんが、それぞれの規制は実際には単独で運用され、最終投資家のためにすべてのデータ・ポイントを集約する単一の規制は存在しません。しかも、様々な調査が投資家の理解と関与が不十分であることを示唆しているにもかかわらず、EUの政策は依然として紙ベースの情報開示に頑なに固執しています。実際、PRIIPs規制は3ページの紙の文書を要求しており、空白の4ページ目をどうするかという奇妙な判断が運用機関に残されています。

 

業界はこうしたギャップを埋めようとしており、我々はEUの政策当局に対し、米金融業規制機構(FINRA)のファンド・アナライザーに類似しつつもさらに進んだ構想によって、投資家が投資商品をすべてデジタル・ベースで比較できるようにする運用業界の取り組みを後押しするよう働きかけていきたいと考えています。このような取り組みは、デジタル能力が高まりつつある投資家層を引き付けるだけでなく、MiFID 2の後戻り的な方針によって生じかねない「ガイダンス・ギャップ」を自動ガイダンスやさらにはロボ・アドバイスを通じて埋める助けにもなるでしょう。また、こうした取り組みは、オンライン比較を通じて商品間やプロバイダー間の競争も促進すると思われます。英国の運用機関に関して言えば、これは金融行動監視機構(FCA)が実施した運用市場調査報告の結果に対応するために多少役立つかもしれません。

 

現在繰り広げられている最も大きな政策論議は何でしょうか。

 

ダン・へドリー氏:目下の最も大きな政策論議はやはりPRIIPsとこの規制のファンド業界との関連性を巡るものです。より正確に言うと、この規制がファンド業界とその顧客に強いる可能性がある後退です。PRIIPs規制は善意から始まり、UCITSの主要投資家情報文書(Key Investor Information Document、KIID)の開示基準をより広範な投資商品に適用することを目指していました。しかし、政策当局がPRIIPsをUCITSの開示基準に向けて引き上げるのではなく、PRIIPsの様々な特徴(最も顕著なのは保険ベースのPRIIPs)に合わせてUCITSの基準を引き下げたため、PRIIPs規制は急激に劣化しました。

 

PRIIPs規制は、消費者からの要求にもかかわらず過去のパフォーマンス・データの使用を認めない一方で、UCITSの年次コストの開示を撤廃し、商品保有期間におけるコストの平均を算出したRIY(Reduction in Yield)に置き換えました。これにより、真の保有コストが平均値によって覆い隠されてしまうだけでなく、投資家はPRIIPsの組成者が設定した推奨保有期間の終了時点以外における保有コストを確認できなくなってしまいます。また、PRIIPsに関して提示される取引コストは取引コストではなく、2時点間のスリッページ・コストです。我々の暫定的な分析では、こうしたスリッページ・コストはマイナスにもプラスにもなり得ます(プラスとは運用機関がブローカーと取引することで報酬を得ていることを示唆していますが、実際にはそうではないと断言できます)。

 

PRIIPsの政策当局はこれらの点に関して運用業界の声に耳を傾けることに消極的なようですが、法的には少なくともUCITSが対象に加えられる前の2019年中にPRIIPsを検証する必要があります。これは、PRIIPsが機能しているか否か、さらには今後UCITSにとって有効なものになり得るか否かを試す実際の機会を提供してくれます。我々は政策当局が検証を「既成事実」として扱うことでこの機会を無駄にしないよう働きかけています。UCITS業界はこのような働きかけはしないでしょう。

 

資本市場同盟(CMU)や汎欧州年金商品(PEPP)といったいくつかの野心的な汎欧州規制構想が進行中です。これらのプロジェクトが欧州全体で長期投資商品への参加率を高めると信じていますか。

 

ダン・へドリー氏:正直なところ、我々はCMUの戦術的な必要性に関して業界の懐疑的な見方をある程度共有しています。例えばジョン・ケイ氏は、CMUは問題を探し続けるための解決策であり、EUの実体経済を支えるドイツの家族経営の中小製造企業であるミッテルシュタンドは地域の協同組合銀行や貯蓄銀行からの融資に十分過ぎるほどアクセスできていると示唆しています1

 

我々はジョン・ケイ氏と同様に、政策当局が貯蓄チャネルから投資チャネルへと重視する資金調達源を戦略的に転換することを歓迎しています。さらに、CMUが導く新たな形の規制に関する対話も歓迎しており、とりわけ政策当局が金融サービスに関して、市場参加者が提供し得る社会的効用と市場参加者がもたらすリスクとのトレードオフの観点から検討し始めていることは好ましいことです。運用業界は、銀行に匹敵しながらもシステミック・リスクのない資金調達源として認識され始めています。

 

我々はPEPPについても似通った理由で同様に期待しています。3本目の柱となる年金の提供が必要とされていることは広く認識されています。PEPPに関する最近の公聴会に、金融機関や規制当局以外からも多くの参加者があったのは喜ばしいことでした。こうした参加は、より幅広い社会改革政策におけるPEPPの位置付けを認めるものです。言うまでもなく、PEPPを成功させるには(実現が容易ではない)欧州全体での税制改革に加え、運用機関、保険会社、年金プロバイダーの連携が必要です。退職後の備えに対する投資家のニーズは、業界全体による創造的で協調的な発想を必要とする方向に変化しています。そして我々は2017年を通じて、さらにそれ以降もこの問題に関わっていきたいと考えています。

 

(ディスクレーマー箇所)

当資料で示されている見解は、2017年1月19日時点における筆者の見解であり、ブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・コーおよびその子会社と関連会社(“BBH”)の見解と一致するものもあれば一致しないものもあります。また、これらの見解は情報提供のみを目的としたものです。当資料に含まれる情報は信頼できると考えられる様々な情報源に基づいており、事前通知無しで変更されることがあります。さらに、これらの見解は通貨や市場の将来のパフォーマンスを予想または保証することを意図したものではありません。当資料はリサーチ、または投資、法律、もしくは税務に関する助言と解釈されるべきものではなく、投資判断の根拠とするのに十分な情報と考えるべきものでもありません。

 

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1ジョン・ケイ、「他人のお金:宇宙の支配者か、それとも人々の奉仕者か(Other People’s Money: masters of the universe or servants of the people)」(2015年)

The positions expressed are those of the author as of 1/19/17 and may or may not be consistent with the views of Brown Brothers Harriman & Co. and its subsidiaries and affiliates (“BBH”), and are intended for informational purposes only. Information contained herein is based upon various sources believed to be reliable and subject to change without notice. Furthermore, these positions are not intended to predict or guarantee the future performance of any currencies or markets. This material should not be construed as research or as investment, legal or tax advice, nor should it be considered information sufficient upon which to base an investment decision.

This article was originally published in the 2017 Regulatory Field Guide. The guide features insights from a number of our experts on key regulatory developments that will have the greatest impact for asset managers in the year ahead – and beyond. Visit bbh.com/regulatoryfieldguide to explore the guide.

この内容はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・コー(BBH&Co.)の作成した 2017 Regulatory Field Guideの参考として翻訳されたものです。内容については日本語のみで解釈せず、 2017 Regulatory Field Guideを原文としてご理解ください。また、本翻訳は参考訳であり、翻訳の正確性や完全性を保証するものではないことをご理解ください。