欧州連合(EU)の個人投資家向けの保険ベースパッケージ型投資金融商品(PRIIPs)規制の施行を巡って、昨年秋に予期せぬ混乱が生じました。施行日がまたしても延期され2017年12月31日となり、「PRIIPs規則の最終決定を待ちながら1年をスタートする」という運用業界にとってあまりにもお馴染みの状況になったのです。

 

施行が延期されたのは、欧州議会が2016年9月にPRIIPsの主要投資家情報文書(Key Investor Document、KID)規則に関する欧州委員会の提案を却下したためでした。KIDの目的は個人投資家に、銀行、保険会社、運用機関が提供する投資商品を容易に比較できるようにするための標準化された情報開示文書を提供することにあります。

 

欧州議会は、欧州委員会が推奨した将来のパフォーマンスの計算方法を巡る懸念からPRIIPsに関する提案を却下しました。欧州議会は、「この計算方法は過度に楽観的な予測につながりかねず、そうなれば投資家にとって有害である」と考えたのです。欧州議会の批判を受けて、欧州委員会はPRIIPsのKID規則の変更を提案しました。新たな提案では「ストレス下にある」市場に関する第4のパフォーマンス・シナリオが追加されたほか、個人投資家にこの商品は複雑な資産クラスに投資する可能性があることの警告に関する注意喚起(comprehension alert)が強化されました。

 

問題は残る

欧州委員会が変更を提案したにもかかわらず、運用業界の懸念は払拭されていません。主な懸念は以下の3つに関するものです。

 

  • 将来のパフォーマンスの予測:これは過去のパフォーマンスの開示という現在の慣行からの脱却であり、運用業界は新たに規定された方法は大半のケースにおいて上振れ余地を過小評価し、損失を過大評価するものだと考えています。

 

  • 取引コストの見積方法:運用機関は、取引注文が出された時の買い呼び値と売り呼び値の中間価格として計算される「アライバル・プライス(arrival price)」と呼ばれる価格を用いて取引コストを見積もるよう義務付けられます。一般的に、運用機関が他の業務においてアライバル・プライスを用いることはありません。

 

  • 規制の相反:最後の論点は、PRIIPsの規則が他のEU規制と整合していないことです。一例を挙げると、アライバル・プライスは第2次金融商品市場指令(MiFID 2)の取引コストの計算で求められている測定数値ではありません。もう1つの例として、UCITSファンドは、将来ではなく過去のパフォーマンスの開示を義務付けられています。

 

次の展開は?

欧州委員会は2017年前半に新たなPRIIPs規則案をまとめ上げ、欧州議会に再提出して承認を求める見通しです。それまでの間、運用業界は重要な項目に対処するべく大規模なロビー活動を展開するでしょう。

 

運用機関にとって、これは待機状態がもう少し長引くことを意味します。しかし、PRIIPs規制はすでに施行されていたはずであるため、大半の運用機関ではPRIIPs規制に向けた準備がかなり進んでいると思われます。最終規則が明らかになれば、あとは運用機関がPRIIPsのKID対応能力を構築するという必要な作業の完了に向けて計画を推進するだけの問題になるでしょう。とはいえ、期限の短さや他に実施の優先順位を争う規制があることを踏まえると、PRIIPs規制の施行までの道のりは険しいと言えます。

 

KIDの要件

規則案には、使用する文言とレイアウトを規定する共通の雛型が含まれています。投資商品を問わずPRIIPsのKIDはA4用紙3ページと規定されており、以下の事項が含められます。

 

  • 投資商品の組成者(運用機関)に関する情報

 

  • 商品の目的とその達成手段の説明

 

  • 複雑な商品について、この商品は理解するのが難しい可能性があると投資家に警告する理解に関する注意喚起

 

  • 市場リスクと信用リスクを1~7の段階にまとめたリスク指標

 

  • 4つの「パフォーマンス・シナリオ」を概説したリターンに関する箇所
    • -ストレス・シナリオ
    • -悲観的シナリオ
    • -中立的シナリオ
    • -楽観的シナリオ

  • 2つのカテゴリーに分けられたコスト情報の開示

全期間コスト: PRIIPsの年間総コストをまとめたもの

コストの内訳:ポートフォリオ取引コストの内訳

 

KIDは年次の再発行が義務付けられており、個人投資家が投資判断を下す際にその内容を勘案できるよう、十分な時間的余裕を持って提供する必要があります。

 

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This article was originally published in the 2017 Regulatory Field Guide. The guide features insights from a number of our experts on key regulatory developments that will have the greatest impact for asset managers in the year ahead – and beyond. Visit bbh.com/regulatoryfieldguide to explore the guide.

この内容はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・コー(BBH&Co.)の作成した 2017 Regulatory Field Guideの参考として翻訳されたものです。内容については日本語のみで解釈せず、 2017 Regulatory Field Guideを原文としてご理解ください。また、本翻訳は参考訳であり、翻訳の正確性や完全性を保証するものではないことをご理解ください。