風と帆がそれぞれ単独では船を操舵できないのと同様、テクノロジーと規制も金融サービス業界を導くために常に一体となって歩を進めていくでしょう。しかし、今日のフィンテック・ソリューションの出現は、金融サービス・プロバイダーと規制当局の協力関係の見直しを迫っています。

過去の事例を見ると、金融サービスにおけるプロセスの変化とテクノロジーの進歩は規制機関による同等かつ逆方向の反応を引き起こし、それは通常、以下の少なくとも1つにつながりました。

  • 何らかの形のデータ標準化または報告要件
  • 新たな業務統制や手順
  • 現状のテクノロジーを排除する勧告

 

デジタル・ディスラプション(創造的破壊)が迫る協力関係の見直し

これらの結果は従来、新たなテクノロジー・ソリューションの普及率を適切に調整するのに役立ってきましたが、デジタル・ディスラプションのスピードと影響を受けて、既存のプロバイダー、フィンテック・プロバイダー、規制当局の間の効果的な協力が重視されるようになっています。過去数年間には、金融サービス業界のテクノロジー面の優先事項がいくつかの重要な点で変化しており、そうした変化には以下が含まれます。

 

  • 顧客からのデジタル・ユーザー体感に対する需要増大
  • 人とプロセスの見直しから軸足が変化し、代わりにロボティック・プロセス・オートメーション、機械学習、人工知能(AI)といったより的を絞った自動化技術の推進が焦点になった
  • デジタル・ソリューションの開発に必要な資本が大幅に減少したことによる、従来よりも低リスクでペースの速い革新周期

 

より先見性のある規制当局は、これらの要因の理解と、規制面での対応を、デジタル技術革新を積極的に促進する方向に転換させられる能力が将来を大きく左右すると認識しています。画期的なソリューションを生み出せるかは、今後競争と協力を迫られる規制対象および規制対象外のエンティティに対して公平な環境を整えられるかどうかにかかっています。規制当局が体系化を開始する中、これは運用業界にとっては機会と試練の両方を生み出しています。

 

FCAが先頭に立って「規制の砂場」を整備

英国の金融行動監視機構(FCA)はフィンテック分野における屈指の監督機関であると広く認識されています。2014年に、FCAは新たなテクノロジーの開発を通じてイノベーションを推進、競争を促す取り組みである「プロジェクト・イノベート(Project Innovate)」を開始しました。この広範なプロジェクトにおける1つの取組は「レギュラトリー・サンドボックス(規制の砂場)」の創設であり、これはFCAの規制基準を満たす新たな革新的ソリューションを提供したいと考えている企業のためのインキュベーターとしての役割を果たしています。こうした動きは、フィンテック・プロバイダーが新たなテクノロジーをテスト出来るようにするための最初の実践的なステップの1つであると同時に、投資を行う消費者を新規事業につきもののリスクから守るものと言えます。

 

FCAのレギュラトリー・サンドボックスは最も高いレベルにおいて、既存のプロバイダーと新興のプロバイダーがともに実際の市場環境で革新的な新商品や新サービスをテストするための守られた環境を創出します。FCAのレギュラトリー・サンドボックスは、規制監督を完全に排除するものではありませんが、現在の市場について絶えず強化されている規制面の障壁を当初は低くしようとしています。基本的に、FCAは既存および新興のソリューション・プロバイダーが実際の生きた「生態系」において革新的な新製品や新サービスをテストできる守られた環境を作り出すことを目指しています。レギュラトリー・サンドボックスへの参加が認められたプロバイダーは、従来であれば前提条件となったあらゆる標準的な規制の影響を即座に受けることなく、新商品や新サービスの利用に積極的な顧客と直接やり取りすることができます。

 

レギュラトリー・サンドボックスの適格基準

FCAはレギュラトリー・サンドボックスに参加できる事業体を決定するために、適格基準を定めています。2016年には、69社がそれぞれの提案するテスト・ケースの目的、内容、成功基準を説明した参加申請書を提出しました1。一般的な適格条件の一部は以下のとおりです。

 

  1. 真のイノベーション:新たなソリューションは真に革新的なもの、すなわちすでに提供されているものと大きく異なるか
  2. 消費者の利益:消費者に明確な利益をもたらす十分な見込みがあるか(この基準は全テスト期間を通じて満たされる必要がある)
  3. 対象範囲:新たなソリューションは金融サービス業界向けに考案されたものか、または金融サービス業界を支援するものか
  4. レギュラトリー・サンドボックスの必要性:レギュラトリー・サンドボックスの枠組み内でテストする真の必要性があるか
  5. テストの準備状態:提案されたケースは実地テストを正当化するほど十分に準備が進んだ段階にあるか

 

2016年末時点で24のプロジェクトがFCAに認可され、そのうち16のプロジェクトが積極的に概念実証(POC)に取り組んでいるか、レギュラトリー・サンドボックスからサービスを提供しています。これらの商品はロボティクス、分散型台帳技術(DLT)ソリューション、その他の規制関連ソフトウェア・ソリューションに集中しています。

 

他の規制当局はFCAに追随する見通し

FCAは長年にわたってより進歩的な世界の規制機関の1つと見なされており、その戦略は、規制当局が金融サービスのイノベーションを人為的に阻害することなく自らの目的を果たせることを証明しています。フィンテックの規制への取り込みを積極的に促進するスキームの導入に関して言えば、他の欧州諸国や米国、アジアの規制当局は「ファスト・フォロワー(素早い追随者)」的なアプローチを取っているように見られます。

 

進む方向にかかわらず、各規制機関は金融サービス業界のためにより長期的な計画を立てようとしています。多くのプロバイダーは、FCAの構想が「強い向かい風に対して進路を変える直前にジブシートを巧みに緩めることが何故重要なのか」を証明してくれることを望んでいます。

 

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1 FCAによる2016年7月11日の報道発表「FCA、プロジェクト・イノベートが2周年を迎えるに当たってサンドボックスへの参加企業を発表(FCA unveils successful sandbox firms on the second anniversary of Project Innovate)

This article was originally published in the 2017 Regulatory Field Guide. The guide features insights from a number of our experts on key regulatory developments that will have the greatest impact for asset managers in the year ahead – and beyond. Visit bbh.com/regulatoryfieldguide to explore the guide.

この内容はブラウン・ブラザーズ・ハリマン・アンド・コー(BBH&Co.)の作成した 2017 Regulatory Field Guideの参考として翻訳されたものです。内容については日本語のみで解釈せず、 2017 Regulatory Field Guideを原文としてご理解ください。また、本翻訳は参考訳であり、翻訳の正確性や完全性を保証するものではないことをご理解ください。